私たちは「良い行い」をどう測ればいいのか?
「SDGs」という言葉が日常に溶け込み、誰もが「持続可能」を意識する時代。しかし、私たちは心のどこかで、ある種の物足りなさを感じてはいないでしょうか。「自分のこの行動が、本当に世界を良くしているのか実感が持てない」という、手応えの不在です。

2025年12月20日、愛媛大学附属高等学校で開催された「ESD Youth Summit 2025」。そこには、そんな「貢献の見えにくさ」を鮮やかに突破し、教育の最前線で起きている静かな、しかし確実な革命の光景がありました。彼らが手にしていたのは、次世代アプリ「L-TanQ(エル・タンキュー)」。地域通貨とSDGsポイントを融合させたこのシステムは、もはや単なる学習ツールではありません。それは、私たちが「価値」を定義し直すための、未来の経済圏そのものでした。
本プロジェクトは、「心豊かな社会をつくるための子ども教育財団(代表:豊田敬子氏)」の全面的な支援を受け、社会実装を前提とした壮大な実験として動いています。本記事では、このサミットの熱気から見えてきた、衝撃的な「未来のスタンダード」を4つのポイントに絞ってお伝えします。
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減らないお金?「SDGsポイント」という新しい価値のものさし
この取り組みが提示する最もエキサイティングなパラダイムシフトは、アプリ「L-TanQ」内で運用される2つのポイントの「性質の差」にあります。
一つは、地域通貨「Eru(エル)」。これは従来の通貨に近く、商品やサービスを「使う(支払う)」ことで減り、「貯める(稼ぐ)」ことで増える、流動的な価値です。
驚くべきはもう一つの「SDGsポイント」です。これは社会貢献活動に対して付与されますが、最大の鍵は「貯まるだけで、決して減ることはない」という点にあります。
「SDGs活動を見える化したポイント」— L-TanQが提示する、新しい価値の定義。
ローカルポイントが「消費の道具」であるならば、SDGsポイントは「積み重なる徳」の履歴です。使っても消えない、いわば「社会貢献残高」。自分の行動がどれだけ世界を豊かにしたかが永続的に可視化されることで、人の動機は「自分の得」を超え、自然に「社会への貢献」へとシフトしていく。このポイントシステムは、人間の善意を裏付ける新しい経済のものさしになろうとしています。
50%が「つくる責任、つかう責任」に。高校生の視点は想像以上に戦略的
サミットでは、愛媛大学附属高校2年の三好渚月さんによる、文化祭での実証実験に基づいた研究結果が発表されました。そのデータが示した現実は、大人の予想を遥かに超える戦略的なものでした。
文化祭でのL-TanQを通じた活動データを分析したところ、SDGsの17の目標のうち、「目標12:つくる責任、つかう責任」への貢献が全体の50%を占めたのです。

高校生の社会貢献といえば、かつては「ボランティア(奉仕)」のイメージが強かったかもしれません。しかし、彼らは今、持続可能な社会を創るためには「新しいビジネスや技術的なイノベーション(アントレプレナーシップ)」が不可欠であることを本能的に理解しています。単なる「善意の提供」ではなく、社会の仕組みをアップデートしようとする若者たちの高い視座が、この「50%」という数字に凝縮されているのです。
「消費」を「創造」に変える。高校生が「商品開発者」になる経済圏
サミットのワークショップは、単にポイントを交換し合う「ごっこ遊び」ではありませんでした。高校生たち自身が「商品開発者」となり、プロフェッショナルな「社会実装」に挑む場となっていたのです。
彼らは、以下の2つの厳しい条件を満たす商品・サービスを企画し、L-TanQに登録します。
- 地域に関係すること
- SDGsの達成に寄与すること
例えば、単なる清掃を「ゴミ拾いパーティー」という商品(サービス)へと昇華させ、アプリ上で流通させる。管理者の承認を経て発行されたQRコードを通じて取引が行われるプロセスは、学校行事を「仮説検証の実験場」へと変貌させました。









「一本の線でつながる→ 個の継続から地域社会実装まで」
有限会社ラウンドテーブルコムが提供するこの仕組みは、個人の学びを孤立させません。個人の継続的な探究が、アプリというプラットフォームを通じて組織の設計に組み込まれ、そのまま地域社会への実装へと直結していく。この「一本の線」こそが、未来の教育と経済を繋ぐライフラインなのです。
「ウェディングケーキ・モデル」で解く、経済・社会・環境の相関図
なぜ、高校生たちがこれほどまでに視座の高いプロジェクトを設計できるのか。その背景には、SDGsの構造を捉える「ウェディングケーキ・モデル」の徹底した理解があります。彼らは17の目標をバラバラの項目としてではなく、以下の階層構造で捉えています。

- 最上層:経済(Economy)
- 中層:社会(Society)
- 最下層:生物圏(Biosphere / 環境)
このモデルの核心は「依存関係」にあります。すべての経済活動は健全な社会の上にしか成立せず、その社会は豊かな地球環境(生物圏)という土台があって初めて存続できる。 彼らがポイント設計を行う際、この階層構造を意識することは、「この利益は、土台である環境や社会を削って得たものではないか?」という本質的な問いを立てることを意味します。この構造的な理解こそが、表面的なブームに流されない、真に持続可能なビジネスを生む力の源泉となっているのです。
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あなたの「1ポイント」は、どんな未来を創りますか?
「L-TanQ」が巻き起こしている旋風は、単なるアプリの普及ではありません。それは、これまで「形にならないもの」として見過ごされてきた善意や事業の社会的価値を、誰もが認識できる「資産」へと書き換える挑戦です。
有限会社ラウンドテーブルコム、そして愛媛の高校生たちが描き始めた未来は、「お金を使えば減る」というこれまでの常識を、「貢献すれば誇りが積み上がる」という新しい喜びで上書きしようとしています。
もしあなたのスマートフォンに、自分だけの「社会貢献残高」が表示されるようになったら、今日選ぶ商品は変わるでしょうか?
愛媛から始まったこの小さな経済圏の実験は、私たちの「消費」を「投資」へ、そして「創造」へと変えていく、未来のスタンダードの夜明けなのです。
