HUMI Projectの10年

もう10年も経ってしまったのですか。インターネット草創期からのプロジェクトです。
7億円で慶應がグーテンベルグの聖書を購入して始まったこのプロジェクト、私の恩師の高宮教授が中心に活動しているプロジェクトということもあり、久々に大学を訪問してきました。

10年間のインターナショナルな活動が実を結び、図書館、大学等のプロフェッショナルからの評判を戦略的に勝ち得たプロジェクトに発展しています。

Humanity Multimedia Interfaceという名付けの親が高宮教授だったという裏話も高橋名誉教授からお聞きすることができました。

また、このプロジェクト通じて、福沢諭吉先生がFukusawaというようにsaを使って日本語の「ざ」を表していたサインを使っていたという発見もありました。蘭語を学んでいた福沢先生らしいサインの仕方という見方もあります。

若手の研究者の活動の場にも繋がっているようです。しかも学部を超えてのコラボレーションが起きている事はとても意義のあることだと思います。
午前中最後の発表は文学部と理工学部の共同研究という形で、文字認識システムによる、聖書の分析手法の発表がありました。文学部からはなかなか技術を追え ない部分の研究が理工学部では初歩的な研究であることもわかりました。このあたりは、横断的な研究をもっと積極的に押し進める事が必要であると痛切しまし た。もっと早く結論が出せたはずです。

一方で、最近ではコンピュータではまだ人間のせいぜい幼稚園児の知能程度しか勝ち得ていないという論もあるようですが、コンピュータを活用した学術 的アプローチには限界があるのではないかとも私は思い始めています。だとしたら、デジタルアーカイブの研究というのは何を到達点として研究の価値があるの かを今一度見直す必要があるということです。

確かに、それまでアナログで研究してきた研究者にとっては、圧倒的な労力を削減する手段にはなるわけですが、それはあくまでも技術が解決してくれた 産業上の効率性があがったということに他なりません。つまり問題はこれからなのでしょう。時間がかかる作業から人間が解放された時に、一体人間は何を見つ けられるのか。このあたりを見据えた今後の研究が期待されるわけです。

一方で、このプロジェクトが始まってから後に出現してきたグーグルの話も出てきました。この点は単に歴史的事実として放っておくにはもったいない情 報だと思います。もっと突っ込んだ議論が必要だと思います。グーグルの企業姿勢と一般的に行われている大学でのIT技術を活用したプロジェクトでは立ち位 置で大きな違いがあるからです。(もともとはグーグルも大学のプロジェクトだったのかもしれませんが。)

グーテンベルグの聖書はメディア革命の象徴です。グーグルについても同じ事が言えるでしょう。彼らは既存のメディアをも包括して変革してしまう程の 力を持ち始めたと言えます。つまりネット革命がメディア革命に繋がっていることを意識しているか否かです。大学での研究はもっと公開されるべきでしょう。 一部の図書館、大学、知識階級に公開されて認められたという視点ではグーグルにはなれないわけです。

今後どのようにこのコミュニティを拡げて行くのか、このプロジェクトを通じて、大学を世界的なメディアにできるか否かは、今後の大学の経営者、研究者に課せられた大きな目標になるのかもしれないと、実はこのプロジェクトが起きた10年前から考えていた私の私見です。

オープンコースウェアーの活動もこのプロジェクトの兄弟プロジェクトで動き始めていますが、このあたりがもっと力を合わせて活動して行って、世界をリードするコンテンツが慶應からフリーで発信されることを期待しています

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